ワーケーションとは?宿泊施設が注目すべき理由と導入のポイント

公開日 (更新日 2025.12.18)

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ワーケーションとは?宿泊施設が注目すべき理由と導入のポイント

コロナ禍を経て、リモートワークやテレワークが定着し、「働く場所を選ばない」選択肢が現実となりました。この流れの中で、「ワーケーション」は宿泊施設の新たな収益の柱となり得る大きなビジネスチャンスとなっています。

本記事では、このワーケーションを深掘りし、導入による具体的なメリット(長期滞在による売上向上、稼働率の安定化)や、成功に不可欠な設備、サービス、プロモーションのポイントを詳しく解説します。

ワーケーションとは

「ワーケーション」とは、「ワーク(Work:仕事)」と「バケーション(Vacation:休暇)」を組み合わせた造語です。単なる旅行中の隙間時間に仕事をするのではなく、休暇を楽しみながら同時に仕事も行うという、新しい働き方・旅のスタイルを指します。

ワーケーションの最大の特徴は、働く場所を選ばないリモートワークやテレワークの普及を背景としている点にあります。これまでオフィスでしかできなかった仕事が、リゾート地や温泉地、自然豊かな場所など、普段とは異なる環境でもできるようになりました。この環境の変化が、仕事のパフォーマンス向上やクリエイティビティの刺激につながると期待されています。

ワーケーションの種類

ワーケーションは利用目的や滞在スタイルによって、主に以下のタイプに分類されます。

  1. 集中型ワーケーション
    • 主目的: 普段の環境から離れ、集中して特定の業務や研究に取り組む。
    • 特徴: 業務の効率化やアイデア創出に重きを置く。個人利用が多く、短期滞在となるケースが比較的多く見られます。
  2. リフレッシュ型ワーケーション
    • 主目的: 仕事の合間に観光やレジャー、地域の体験などを積極的に取り入れ、気分転換を図りながら業務の効率を高める。
    • 特徴: 家族やチームでの利用が多く、中長期滞在の傾向が強い。ストレス軽減、従業員の満足度向上などが期待されます。

ワーケーションが宿泊業界から注目されている背景

ワーケーションが宿泊業界から注目されている理由は、既存の収益構造を改善する可能性を秘めた新しい市場が本格的な拡大期に入っているためです。

急成長するワーケーション市場

ワーケーション市場の急速な成長の背景には、テレワーク・リモートワークの普及が強くあります。これは、宿泊施設にとって新たな収益源を確保する上で見逃せないトレンドです。

株式会社矢野経済研究所の調査によると、国内のワーケーション市場規模は、2021年度には700億円に達したと推計されています(欧米型=個人が費用を負担する実施者を含む)。市場は引き続き成長基調にあり、同調査で示された拡大予測の通り、本格的な成長期に入っていることがその後の動向からも示唆されます。

参照:矢野経済研究所「ワーケーション市場に関する調査を実施(2022年)」

また、株式会社パーソル総合研究所の調査(2024年7月時点)では、正規雇用社員のテレワーク実施率は22.6%と依然として高い水準を維持しており、リモートワークの定着がワーケーション需要を後押ししています。リモートワークが働き方として定着することで、働く場所の自由度が増し、ワーケーション需要を安定的に後押ししています。

参照:パーソル総合研究所「第9回・テレワークに関する定量調査」

さらに、観光庁が実施した「新たな旅のスタイル」に関する実態調査(令和5年度ナレッジ集)においても、従業員100名以上の企業のワーケーション認知度は2023年には88%に達しており、導入率も年々約4ポイントずつ上昇しています。この結果は、企業側がワーケーションを「働き方改革」や「企業の経営課題への対応に寄与」するものとして認識し始めていることを示しており、特に若い世代を中心に新しい働き方として広く受け入れられつつあります。

参照:国土交通省観光庁新たな旅のスタイル」に関する実態調査(令和5年度ナレッジ集)

この市場拡大の背景には、働き方改革の推進やワークライフバランスへの意識の高まりがあり、今後さらなる成長が期待されています。

地域創生・関係人口創出への貢献という社会的要請

ワーケーションは、単なる観光促進だけでなく、地域の活性化や社会課題解決の手段としても注目されています。多くの自治体が、地域を「第二の故郷」のように思ってもらう「関係人口」の創出を推進しています。ワーケーションは、長期滞在を通じて地域と深く関わる機会を提供するため、宿泊施設が地域との連携を深め、その窓口となることが期待されています。地域側からのこうした需要が、宿泊施設がワーケーションに対応すべき大きな後押しとなっています。

宿泊施設がワーケーションに対応するメリット

長期滞在による売上金額の向上

ワーケーション客の受け入れは、宿泊施設全体の売上金額の向上に直結します。

最大の理由は、長期滞在による恩恵です。ワーケーション客は、一般的な観光客のように週末の短期滞在ではなく、数日から数週間といった中長期の滞在を検討します。これにより、宿泊日数が大幅に増加するため、単純に宿泊料金の売上が増加します。

次に、附帯サービス利用の促進です。 ワーケーション客は、滞在日数が長いため、ランチやディナーなどの飲食サービス、有料の会議室、有料のランドリーサービスといった館内の附帯サービスを繰り返し利用する機会が増えます。これにより、宿泊料金以外の追加収益が期待できます。

また、仕事と休暇の両立という特別なニーズに応えるワーケーション特化のプランを造成することで、付加価値の提供が可能です。 これは、ワーケーション客が単なる宿泊だけでなく、「長期滞在を支える利便性」や「仕事の質を高める快適な環境」という、高付加価値なサービスに対価を支払うためです。

例えば、高速Wi-Fi、モニター付きの専用ワークスペース、連泊者限定の優待サービスなど、通常のプランにはない仕事の生産性向上に直結する設備や特典をパッケージ化します。 具体的には、「連泊割引付きワークプラン」や「仕事支援アメニティ付きプラン」といったプランを開発することで、これらの特別な付加価値を享受したいという新規顧客層の集客と、それに伴う売上アップの両立が実現できます。

稼働率の安定化と向上

ワーケーション対応は、宿泊施設の稼働率改善に大きく貢献します。

ワーケーション需要は、従来の宿泊ニーズとは異なる特徴を持っています。その最も大きな違いは、短期滞在だけでなく中長期滞在の可能性があることです。この特性により、中長期の稼働率の安定化を見込めます。

特に、平日の集客強化が可能となります。これまで観光客が少なかった平日や閑散期に、ビジネス客や個人のワーケーション客を誘致することで、オフシーズンや平日の空室率を大幅に改善できます。また、週末だけでなく平日も稼働させることで、月間の収益を平準化し、経営の安定性が高まります。

さらに、快適なワーケーション環境を提供することで顧客満足度が向上し、リピーターの獲得にもつながります。場所を選ばず定期的に業務を行うワーケーション客にとって、気に入った施設は「職場」や「第二の拠点」としての価値を持ちます。そのため、頻繁な再訪による安定した稼働機会の創出が期待でき、稼働率の向上に繋がります。そして、その満足度の高さは口コミを生み、新規顧客獲得の好循環を生み出します。

加えて、多様なターゲット層の取り込みも可能になります。個人ワーケーション、企業研修、チームビルディング、家族でのワーケーションなど、様々なニーズに対応できる施設として認知されることで、新規ターゲット層の集客が実現します。

競合施設との差別化

ワーケーションへの対応は、単なる宿泊施設ではなく「ワークプレイス機能を持つ宿泊施設」としてのブランド価値向上につながります。仕事環境を整備し、ワーケーション客のニーズに応えることで、競合施設との明確な差別化が可能になります。

特に、企業の福利厚生や研修施設としての利用を獲得できれば、継続的な取引関係を構築でき、安定した収益基盤を築くことができます。

ワーケーションに対応するためのポイント

宿泊客の仕事の生産性を高める設備・環境を整える

ワーケーション客にとって、仕事の生産性を高めるための機能的な設備と環境は必須条件です。

高速かつ安定したWi-Fi環境の整備

ビデオ会議、大容量ファイルの送受信、複数のデバイス接続に対応できるよう、高速で安定した回線が必須です。客室だけでなく、共用スペースも含め、施設全体でストレスなく利用できる環境を整備しましょう。より安定性を求める顧客向けには、有線LANポートの設置も有効です。

快適なワークスペースの提供

顧客が集中して仕事に取り組める場所を客室以外にも複数用意することが理想です。

  • 客室内: 広めのデスク、快適な椅子、十分な電源コンセント(複数の差込口)、明るい照明を確保します。モニターやスタンド照明の貸し出しサービスは、高い評価に繋がります。
  • 共用ワークスペース: 個室ブース、集中できるコワーキングスペース、複数名で利用できるミーティングルームなど、多様な仕事のニーズに対応できるスペースを確保します。

リラックスできる空間の提供

仕事の合間に気分転換ができるよう、自然光が入るラウンジ、テラス、庭園などの休憩スペースを用意することで、顧客の生産性向上に貢献します。

仕事とリフレッシュ両面を支えるサービス面を充実させる

上記の設備や環境だけでなく、サービスやサポートも重要です。

ワーケーション向けプランの設計

長期滞在割引など、中長期滞在を促す料金設定を導入しましょう。また、仕事と地域のアクティビティ、温泉などを組み合わせたパッケージプランは、顧客満足度を向上させます。

食事の提供方法の工夫

長期滞在に対応できる豊富な朝食のバリエーション、ランチのデリバリーサービス、チームでの親睦を深めるBBQ設備など、多様なニーズに応じた食事の工夫が必要です。

仕事支援アメニティの充実

文房具セット、プリンター・スキャナーの利用、充電器の貸し出しといった基本的なものに加え、オンライン会議用のスピーカーや外付けディスプレイなどの貸し出しサービスは、他施設との差別化に繋がります。

ワーケーションに関するマーケティング・プロモーションを行う

優れた設備とサービスを整えても、それを適切に情報発信しなければ、ワーケーション客には届きません。

専用ウェブサイト・特設ページの作成

ワーケーション専用のセクションやページを作成し、設備・サービス、プラン内容、料金体系などを分かりやすく掲載することで、ユーザーに効果的に訴求します。

ターゲットを意識した情報発信

SNSを活用し、「仕事がはかどる空間」「リフレッシュできる環境」を視覚的に伝えることに加え、ワーケーション専用サイトへの登録や、企業の福利厚生サービスとしての登録・連携も検討し、ターゲット層に合わせた多角的なプロモーションを行います。

また、自治体・DMO(観光地域づくり法人)との連携も効果的です。地域全体でワーケーション誘致に取り組むことで、より大きな集客効果が期待できます。自治体が実施するワーケーション補助金制度などとも連携すれば、さらなる誘客につながります。

まとめ

ワーケーションは、働き方改革とリモートワークの普及を背景に生まれた、宿泊施設にとって長期滞在による売上金額の向上、稼働率の安定化など、多くのメリットをもたらす大きなビジネスチャンスです。

この成長期にある市場で成果を上げ、競合との差別化を図るためには、以下の3点に戦略的に取り組む必要があります。

  1. 設備面の充実
    高速Wi-Fiや快適なワークスペースといった、仕事の生産性を高めるための環境整備。
  2. サービス面の工夫
    長期滞在プランの設計や、仕事支援アメニティの充実など、利用者のニーズに寄り添ったソフト面のサポート。
  3. 効果的なプロモーション
    ターゲット層に響く専用ページや、自治体連携による情報発信。

市場が本格的な拡大期にある今こそ、ワーケーション受け入れ体制を整える絶好のタイミングです。ぜひ本記事のポイントを参考に、まずは自施設の強みを活かせるワーケーションスタイルを見極め、「働く場所を選ばない時代」の重要な拠点となる戦略を立て、収益の最大化を目指しましょう。

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