レベニューマネジメントとは?実施手順や事例、成功のコツも解説
公開日 (更新日 2024.06.20)

ホテル経営のためには、空室を減らしつつ安定して利益を生み出すことが重要です。そこで使われるのが、「レベニューマネジメント(Revenue Management)」の手法です。需要に合わせて客室の価格設定をするダイナミックプライシングと呼ばれる「変動料金制」を始めとした施策により、客室稼働率を上げることを目的としています。
この記事では、レベニューマネジメントの概要と事例、具体的な手順を解説します。実際に導入する際の注意点や成功のコツもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
レベニューマネジメントとは

レベニューマネジメントの概要や歴史について、詳しく解説します。
収益最大化のために行う経営方法
レベニューマネジメントとは、収益を最大化するために、需要を見越して販売管理を行う方法です。「イールドマネジメント(Yield Management)」とも呼ばれています。
レベニューマネジメントにはいくつか方法がありますが、その1つが、変動料金制です。需要のある時期には価格を高くする、そうでない時期は安くするといったように、需要を先読みして価格管理をします。
変動料金制の手法は、宿泊業界を含めたレジャー業界で導入されています。特徴は、大型連休や年末年始だけではなく、特定のイベントの開催時などイレギュラーな事情にも対応できる点です。これにより、固定価格で販売した際に取りこぼしていた需要も獲得でき、収益アップに期待できるのです。
発祥は1980年代アメリカの航空業界
変動料金制は航空業界で発祥し、やがて宿泊業界を始めとした他の業界へ広まっていきました。
変動料金制が生まれるきっかけとなったのは、1970年代後半に起きた、アメリカ国内での航空事業に関する規制緩和です。
当時、アメリカの航空業界に格安航空会社「ピープルエクスプレス」が参入。大手航空会社「アメリカン航空」は、経営危機に陥りました。そこでアメリカン航空は1985年、オンライン予約システムを活用開始。適切な座席数を適切なタイミングに、適切な値段で販売する仕組みを作ったのです。
以来、レベニューマネジメントの手法の1つとして、多くの業界に浸透しました。
現在はホテル業界やレストラン・レンタカーにも導入されている
変動料金制を始めとしたレベニューマネジメントの手法は現在、航空業界・宿泊業界に加えて以下の業界でも導入されています。
- テーマパーク業界
- 飲食業界
- レンタカー業界
- イベントのチケット販売
ある程度、需要が高まる時期の見込みがあり、かつ一度に販売できる量が決まっている、あるいは、在庫を持ち越せないサービスの業界で導入されている傾向があります。
また近年は、家電量販店やスーパーマーケットを始めとした小売業界への導入も見られます。電子棚札を採用することで在庫を管理し、期限までに売り切るべき商品の価格を下げるといったシステムも始まっているのです。
レベニューマネジメントに取り組んでいるホテルの事例
既にレベニューマネジメントに取り組んでいるホテルは多くあります。ここでは、レベニューマネジメントを導入して成功した、三つの事例を紹介します。
百楽荘|価格の見極めで倒産寸前から約10年間の増収増益
石川県の温泉旅館「百楽荘」は、売上の約3倍である約4億円の借金を抱えていました。客単価は8,000円ほどと比較的安く、単価アップは喫緊の課題だったのです。そこで、レベニューマネジメントを始めさまざまな施策を行いながら、単価アップを目指しました。
まずは宿泊プランやWebサイトの整備を行い、魅力を発信。すると次第に宿泊者数が増え、2014年には「楽天トラベルアワード」で金賞を受賞しました。他にも、「トリップアドバイザーベスト10」や「じゃらん地域売上No.1」を受賞。テレビや雑誌、新聞でも多数紹介されています。
その結果、客単価は3万3,000円にアップ。客室稼働率は3年連続で85%を超え、経常利益(減価償却前)は1.4億円に達しました。単価を上げられたことで、ホテルとして長く続けていける経営基盤ができました。
草のホテル|緻密なプランと価格の設定で売上が約2,700万円増
「草のホテル」は、岩手県のビジネスホテルです。幅広い客層をターゲットにしており、展望大浴場やバイキング朝食、地域最大の駐車場を用意。価格帯も、さまざまに設定していました。
駅からのアクセスも良かったものの、実際はカップル・ファミリー層の利用が少なく、ビジネス客の利用が大半。素泊まりの部屋や、安い部屋しか売れていませんでした。
そこで、近隣施設を意識したプランやグループ向けプランを設定し、日々の需要を見ながら価格設定をしました。その結果、20カ月で、約2,700万円の売上アップを果たしています。
アパホテル|グループ全体で導入し高い稼働率を維持
ビジネスホテル「アパホテル」を展開するアパグループは、組織全体でレベニューマネジメントに取り組んでいます。
稼働率×単価で算出される「レヴパー(RevPAR)※販売可能な客室1室あたりの売上額」の最大化を目標に、各ホテルの宿泊料金設定を支配人に委ねています。正規料金の1.8倍までであれば、支配人が価格を自由に設定できるのです。
加えてレベニューマネジメント研修も行い、支配人のノウハウを養っています。結果、チェーン全体で高い客室稼働率を誇っています。
客室稼働率ついては以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> 客室稼働率(OCC)とは?ADR・RevPARとの違いや目安も解説
ホテルでレベニューマネジメントを行う手順

ホテルでレベニューマネジメントを取り入れる場合の手順を解説します。自社のホテルの需要をしっかりと把握した上で、価格を決めていきましょう。
過去のデータをもとに、現状分析を行う
まずは、ホテルが現在どのような状況なのかを把握するところから始めます。
繁閑に応じて戦略を決めるレベニューマネジメントを進めるには、需要を見極めることが重要です。過去の宿泊客のデータから以下を始めとした内容を洗い出し、数値化して客観的な判断ができるようにしましょう。
- 売上高
- 客室稼働率
- 宿泊客単価
- リピート率
数値では分からない細かいニーズについては、利用している予約サイトのコメントやSNSの口コミなどが参考になります。
客層は、過去の利用客をいくつかのパターンに分類すると把握しやすくなります。このとき、「ファミリー層」「カップル」など違いが明確に分かるよう分類してください。
価格や販売方法を決めて実行する
調査した現状を踏まえて収益目標を作り、どんな販売方法にするかを決めます。上限価格と下限価格を決め、必要に応じて割引の有無や連泊プランの設定なども行いましょう。
ポイントは、利益最大化につながるよう、ターゲットとなる利用客に適した内容を考えることです。たとえばファミリー層向けのプランには早期割引を付ける、ビジネス客向けのプランは連泊プランを提案するといったことです。
ただし、全ての部屋に早期割引を付けることは避けましょう。高めの価格で予約する、駆け込みの利用者を逃してしまいます。
状況を随時確認して改善に取り組む
レベニューマネジメント導入後も、随時状況を確認しましょう。効果の振り返りを確実に行うことが、レベニューマネジメントを使ったホテル経営のカギとなります。
設定した価格やプランでの客室稼働率を把握し、結果を確認しましょう。収益目標に対する達成度合いを踏まえ、必要に応じてプランの変更も行います。
価格設定などは決定したままにするのではなく、現状を踏まえて方向性の確認・改善をしていくべきです。振り返りには、利用客のレビューや口コミを参考にするのも有効です。
レベニューマネジメントを行う際の3つの注意点
レベニューマネジメントを行う際は、以下の3点に注意しましょう。
- 宿泊料金の調節だけにしない
- オーバーブックは極力避ける
- ユーザーへの説明もきちんと行う
レベニューマネジメント単体ではなく、さまざまな施策も併用しましょう。ホテル経営の目線で設定した価格設定は、リピーターや優良顧客が付かなくなるおそれがあります。
特に近年は、インターネット上で情報収集をして泊まるホテルを決める人が大半です。価格を比較しながら予約をすることも多いため、適当な価格でないと予約が入らない可能性もあります。目先の利益だけにとらわれず、長い目で見た取り組みが必要となります。
「オーバーブック」もなるべく避けましょう。オーバーブックも、レベニューマネジメントの手法の一つです。キャンセルを見越して、実際の客室数より多めに予約を受け付けます。しかし、予想外にキャンセルが少なく客室が足りなくなると、直前で予約を断らなくてはなりません。クレームや評判の低下につながるため、慎重に行うべきです。
レベニューマネジメントを取り入れていることも、どこかで周知しておくと良いでしょう。特に変動料金制は、同じ部屋の価格を時期によって変える方策です。世間に浸透してきてはいますが、不平等感を覚えるユーザーもいると予想されます。
レベニューマネジメント成功に近づく3つのコツ
レベニューマネジメントを成功させるために、以下の3つのポイントを意識しましょう。
- 導入後もこまめに管理する
- ツールを使って適切なデータ管理・分析をする
- コンサルティングも検討
前述の通り、レベニューマネジメントは導入したら終わりではありません。実施・結果の分析・改善を繰り返し、プラン内容や金額をこまめに調節していくべきです。
正確なデータ分析や管理も不可欠です。手書きの帳簿を使った大まかな顧客管理や、予約管理のみのホテル管理システム(PMS)では、ホテルの課題をつかみきれない可能性もあります。予約状況を正確に把握できるホテル管理システムを使うのがポイントです。
自社のホテルの特徴や強みを理解した上で、施策を考えることも重要です。ただ単にレベニューマネジメントを導入しているホテルの手法をそのまま真似ても、成果が出るとは限りません。
レベニューマネジメントを行うならコンサルの力を借りよう

レベニューマネジメントの導入と実施には、専門知識と綿密な調査・分析が必要です。自社で考えるのが難しい場合は、専用のサービスやツールを利用してみましょう。
外部のコンサルタントに依頼する方法もあります。特にホテル業界に精通したコンサルタントなら、自社のホテルの魅力を詳しく分析し、最適な運用をしてくれます。
自社のホテルに合ったレベニューマネジメント導入がカギ
ホテル経営のためにレベニューマネジメントは有効ですが、状況分析や価格設定、結果を踏まえた改善など、さまざまな調査・管理・分析を続けていく必要があります。自社で行うのが難しければ、ツールやコンサルタントに頼ると良いでしょう。
旅館・ホテル専門 集客コンサルタントの株式会社宿力では、旅館が母体の企業です。ホテル・旅館出身者や宿泊施設特化型IT企業に在籍していたスタッフも多く、現場の実情を把握した上で提案が可能です。Webサイトに使う写真の撮影や、日々のサポート業務にも対応しています。
レベニューマネジメント導入の際は、ぜひ宿力をご検討ください。