旅館の経営はどう行う?開業までの手順や必要な資格を解説

公開日 (更新日 2024.01.09)

開業準備に役立つ情報を知りたい方

旅館の経営を開始するまでには、行わなくてはいけない幾つかの工程があります。予定通りに開業するためには、進める順番を正しく知って、スケジュールを立てなければなりません。

開業する上で役立つ資格もあるため、準備段階で取得しておくのもおすすめします。この記事では、旅館を開業するまでの手順や注意点などを解説します。

旅館の経営を始める手順

旅館の営業を開始するまでには、複数の行程を経なくてはなりません。

全ての行程を完了させるには時間も掛かるため、何をすべきかを把握して無理のないスケジュールで準備を始めましょう。

自治体の旅館業法窓口に相談に行く

旅館を経営するには、『旅行業法』に基づき、都道府県知事の許可を得る必要があります。しかしまずは、建物の建設前に都道府県の旅館業法窓口に行き、旅館開業の可否を相談しなければなりません。

この時、開業予定地の住所や建物の図面などもチェックされるケースもあります。あらかじめ開業予定の都道府県の『消防法』『建築基準法』といった法令を読み、綿密な計画を立てておきましょう。

温泉施設や酒類の提供など、旅館内で提供するサービスによっても、取得すべき許可が異なります。どんなサービスを提供する予定なのかも明確にしておいて下さい。

尚、自治体によっては管轄の保健所が担当となる場合もあります。

旅館業営業許可申請書を提出する

自治体から旅館経営開始の許可を得られたら、『旅館業営業許可申請書』を提出し、営業の準備を始めます。

各自治体の窓口やWebサイトから書類を入手し、申請手数料と共に提出して下さい。申請手数料は2万2,000円~3万円程の自治体が多く、現金または収入証紙で支払います。

尚、旅館業営業許可申請書の様式や添付書類は自治体によりさまざまです。提出も郵送可能な場合と窓口での提出のみの場合があるため、遠方に開業する場合は提出方法まで確認しておきましょう。

建物の建設と内装工事を行う

実際に使用する建物を建設し、内装工事を行います。この際、旅館業法だけではなく、消防法や建築基準法の遵守も必要です。

内装工事においては、階段の形態や区画など、注意すべき点が多くあります。非常用の照明や、必要に応じて換気設備・排煙設備なども設置しなくてはなりません。内装に使う素材も、細かく定められています。

もし、違法な建物を建築してしまった場合、自己負担での撤去や建て直しをしなければなりません。

保健所・消防の調査を受ける

内装工事まで完了したら、保健所と消防署による立ち入り調査を受けましょう。ここで旅館業営業許可申請書の内容と建物そのものの両方が各種法令や衛生基準に合致しているかが検査され、営業が可能か判断されます。

保健所の調査では衛生上の支障がないかを、消防署の検査では、消防法などへの抵触がないかを確認します。

営業許可証の交付を受け、営業を開始する

保健所や消防署の検査を受けて問題ないと判断されたら、旅館業営業許可申請書が自治体に受理されます。

その内容も問題ないとされると、営業許可証が交付されます。営業許可証を取得すれば、営業が可能です。

旅館の経営は厳しい?意識すべき課題とは

旅館の経営を始める際に意識したいことは、『旅館の経営には工夫が必要である』ということです。

前提として、宿泊施設の数は減少傾向です。帝国データバンクが行った『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)』によると、2021年のホテルや旅館の休廃業件数は、174件。これには、新型コロナウイルスの影響が大きかったと考えられます。

翌2022年の休廃業件数は124件とやや回復傾向となりましたが、未だに他の業界に比べると高水準となっているのです。

参考:帝国データバンク『特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査(2022 年)

また旅館は、客室稼働率もホテルなど他の宿泊施設に比べると低めです。観光庁の『宿泊旅行統計調査』によると、2020年度の旅館の客室稼働率は25.0%にとどまっています。

参考:観光庁『宿泊旅行統計調査(令和2年・年間値(速報値))

対策として、今後は個人利用客に注目した経営を目指すことが挙げられます。実際に、団体客を対象としたホテル・旅館よりも、個人客路線の方が好調をキープしている場合が多いのです。

そのためには、さまざまなアプローチで旅館や客室の価値を高めましょう。内装で個性を出したり、ワーケーションに対応したりしても良いかもしれません。

事前に取得しておくべき3つの許可

営業許可証以外にも、旅館のサービスを充実させるために得ておきたい許可があります。

飲食店営業許可(食品営業許可)

旅館内でお酒を含めた飲食物を提供するなら、『飲食店営業許可』(食品営業許可)の取得が必要です。

この許可を受けるには、食品衛生責任者の設置と営業許可の申請、施設検査が必要です。食品衛生責任者となれるのは、以下を始めとした資格のいずれかを持っている人です。

  • 調理師
  • 製菓衛生士
  • 栄養士
  • 食品衛生責任者になるための講習会の修了者

営業許可の申請をするには、以下のものをそろえて提出しなければなりません。

  • 食品衛生責任者の資格を証明できるもの
  • 申請料
  • 飲食店営業許可申請書
  • ホテル・旅館の見取り図
  • 営業設備の概要・配置図
  • 内装の配置が分かる平面図
  • 水質検査成績書(貯水槽や井戸水を利用する場合)
  • 登記事項証明書(法人の場合)

また飲食店営業許可は一度取って終わりではなく、定期的な更新も必要です。

食品衛生責任

食品衛生責任者は、旅館経営を始める前に優先的に取得しておきましょう。前述の通り、旅館で飲食物を提供する際は飲食店営業許可の取得が必須ですが、その許可は食品衛生責任者がいないと下りません。

食品衛生責任者の資格は、講習会に参加すれば取得できます。講習会では食品の取り扱いやキッチンなどにおける衛生管理についての知識を、1日かけて学びます。

酒類販売業免許

未開封の酒類を販売したいのであれば、酒類販売業免許も取得しておく必要があります。自動販売機で販売する場合も含むため、見落とさないよう注意して下さい。

申請するには、国税庁のホームページからダウンロードできる『酒類販売業免許申請書』などを管轄の税務署に提出します。不明点の確認ができるのは、酒類指導官を設置している税務署のみです。自分で申請する場合には、事前に不明点を洗い出しておくと良いでしょう。

申請書を提出後、税務署からの審査を受けます。標準処理期間は2カ月程度と見ておいて下さい。尚、旅館内で開栓した酒類を提供するだけなら、食品営業許可があれば問題ありません。

公衆浴場の営業許可

旅館内の大浴場などを日帰り利用客にも使わせる場合は、公衆浴場の営業許可を取得しなくてはなりません。

公衆浴場の営業許可を取得するには、以下の書類の提出が必要です。

  • 公衆浴場営業許可申請書
  • 構造設備の概要書
  • 建物の平面図や諸施設の配置図
  • 建物付近の見取図
  • 消防法令適合通知書
  • 建築基準法に基づく検査済証の写し
  • 定款または寄附行為の写し、登記事項証明書(法人の場合)

この他、許可申請手数料として2万2,000円~2万4,000円程度も支払います。

取得しておくと旅館経営に役立つ資格

この他、任意で取得しておくと経営に役立つ資格も多数あります。旅館の規模やオーナー自らがどこまで業務を行うかなども考えた上で、検討してはいかがでしょうか。

消防設備士

消防設備士は、旅館内に設置する消防用設備の工事や点検・整備ができる資格です。旅館が大きい場合、消火器や避難はしご、火災警報機などの消防用設備が必要です。消防設備士は、それらを取り扱う時に必要になります。

消防設備士は甲と乙の2種類があり、甲種消防設備士は、消防用設備などの工事や整備、点検まで対応可能です。乙種消防設備士は消防用設備などの整備や点検のみ、対応できます。

危険物取扱者

危険物取扱者は、旅館内のボイラーの点検やメンテナンスを行える資格です。ホテルや旅館の施設管理では、ボイラーの燃料に重油などの危険物を使用します。とくに温泉がある旅館の場合、ボイラーの取り扱いは不可欠です。

大規模なホテルであれば、専門のスタッフを雇用できます。しかし小規模宿泊施設の場合は、オーナー自身が担当しなければならないこともあるでしょう。そうした際に備えて、危険物取扱者の資格を持っておくと便利です。

税務系の資格

税理士や公認会計士、日商簿記検定などの税務・会計系の資格を持っていれば、経営状況の把握や、経営状況の改善にも役立ちます。

ただし税理士や公認会計士は難易度が高いため、取得に至らなくても構いません。受験勉強のなかで、知識を習得しておくだけでも便利です。

経営系の資格

社労士は人事労務管理や社会保険の手続きを行う専門家です。国家資格のため、従業員を多く雇用する場合に、得ておきたい知識が学べます。中小企業診断士は経営コンサルタントの国家資格であり、経営に関する知識が身に付きます。

税務系の資格同様、取得が難しいものも多めです。資格取得までは至らなくても、知識として蓄えておくと役立ちます。

旅館経営も高度な知識を必要とするため、大学院まで通い、MBA(経営学修士)を取得しておくのもおすすめです。

 語学系の資格

インバウンド対策も考えるなら、語学系の資格もあると良いでしょう。『英検』『TOEIC』『中国語検定』などの学習を通じて語学力を身に付けておくと、外国人観光客への対応もしやすくなります。

日本を訪れる外国人観光客は、対応するスタッフとのコミュニケーションの取りづらさに不満を覚えていることも多くあります。外国人スタッフを採用する方法も選択肢としてはありますが、まずは自分たちで対応できる様にするのも良いでしょう。

多言語対応ついては以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> ホテルの多言語対応はどう行う?事例や方法、注意点を紹介

サービス・マナー関連の資格

接客のスキル向上を目的に、サービス・マナー関連の資格を取得するのもおすすめです。例えば、『サービス接遇検定』『ユニバーサルマナー検定』などがあります。

資格取得の勉強をする過程でサービスやマナーに関する知識を身に付ければ、宿泊客の満足度がアップしやすくなります。

旅館の経営に関するQ&A

ここからは、旅館経営に関してよくある疑問にお答えしていきます。

宿泊施設として営業開始できるまでに何日掛かる?

旅館業営業許可申請書の提出(受理)から営業許可証の交付までは、30日から数週間程度掛かるのが一般的です。

ただし、標準処理期間は自治体ごとに異なります。例として、幾つかの自治体が申請書受理から営業許可証の交付までに掛かる日数を見てみましょう。

  • 福島県:約10日
  • 京都市:30日
  • 東京都港区:約1~2カ月

上記の通り、掛かる日数には大きな違いがあります。スムーズに開業できる様に、開業予定地の自治体に早めに確認して下さい。

どんな書類の提出が必要?

旅館業営業許可申請書に添付すべき書類は自治体によって異なるものの、一般的には以下を求められます。

  • 営業施設の構造設備
  • 旅館の平面図・立面図や配管図
  • 旅館の周囲の見取り図
  • 定款や登記事項証明書(法人の場合)

営業許可証交付後、建設が完了したら、消防法令適合通知書や建築基準法に基づく検査済証の写しの提出も必要です。

旅館を開業するための初期費用の総額は?

旅館の開業に必要な初期費用は、土地や物件の調達方法により大きな差が出ます。土地代の掛からない居抜き物件を活用するならば初期費用を抑えることができます。一方、土地の取得から始めて建物も新築するならば、数千万円~数億円は必要です。

最も割合が大きいのは、土地代や建物の工事費です。好立地の場所を選んだり、部屋数を増やしたりすると、初期費用はさらに高額になります。

旅館のコンセプトやターゲット層を固め、用意できる初期費用も踏まえて設置する部屋の数や内装などを決めると、無理のない計画になります。

ただし、費用を抑え過ぎることは避けるべきです。インテリアに統一感がなかったり、設備が不足していたりする場合、客足が遠のく可能性があります。費用だけにとらわれず、全体のバランスを考えることが大切です。

旅館経営に必須の資格はある?

旅館を経営するだけであれば、必須の資格は特にありません。しかし、上述の様に取得しておくと設備やサービスを充実させられるものや、経営者としての知識が身に付いて実務で役立つものは多数です。

経営や接客に関する資格を持っていることで、取引先や従業員への説明に説得力が生まれる場合もあります。

旅館を経営したいと感じたらやるべきことは?

まずはさまざまな宿泊施設を研究した上で、どんな旅館にするかコンセプトを固めましょう。

旅館の経営を始める際、開業予定の自治体への事前相談が必須です。その際、具体的な図面や計画を聞かれることも珍しくないのです。コンセプトが固まると、無駄を省いて初期費用を抑えられたり、開業後の運営に一貫性が持てたりします。

その後はエリア選定、サービス内容の検討をします。エリアやサービスによって、掛かる費用や、利益を出すための営業目標などが変わってくるため、慎重に検討して下さい。

ここまで決まったら、自治体へ相談に行きましょう。具体的な計画があれば、スムーズに話が進むはずです。

経営者を支えるコンサルティングサービスもある

自力での経営に不安があるなら、外部のコンサルティングサービスを利用する方法もあります。この時、旅館・ホテル経営者向けのコンサルティングを選べば、より効果的です。

もちろんコンサルティング料は発生します。しかし、個人では収集しきれない専門的な知識を持ってアドバイスが受けられるため、早めに経営を安定させられるはずです。

手順を理解した上で旅館の経営を始めよう

旅館の経営を始める前にはさまざまな準備が必要です。営業許可の申請にも時間が掛かるため、早めの準備で段取りよく進めることが肝心です。まずは作りたい旅館のコンセプトやターゲット層を固めた後、予算を念頭に置きながら進めてはいかがでしょうか。
旅館の開業準備や経営には専門的な知識が必要となるため、コンサルティング会社を利用するのも手です。旅館・ホテル専門のコンサルティング会社『宿力』には多数の宿泊業界出身のコンサルタントが所属し、お客様に合ったコンサルティングを行っています。コンサルティングサービスをご検討中の方は、ぜひお気軽にお問い合わせ下さい。