ホテル業務のDXが急務!実施の手順を事例と共に解説

公開日 (更新日 2024.01.09)

デジタル戦略を学びたい方

DX(Digital Transformation)とは、目まぐるしく変化する環境のなかで、デジタル技術やデータを用いて業務・事業の改善を行うことを言います。

社会情勢からの影響を受けやすく、人材不足という課題がある宿泊業界にとっても、DXは重要です。導入のメリットや手順、実例などについて紹介します。

宿泊業界でDXが進む理由とは

DXは、宿泊業界でも進んでいます。その理由としては、以下の2つがあります。

人口減少社会で生き残っていくため

まず、国内人口が減少する中で、宿泊施設として生き残っていくためだと考えられます。

総務省統計局によると、国内の総人口は12年連続で減少し、2022年10月時点では前年比55万減の約1億2,497万人となっています。少子高齢化で人口の大きな回復が見込めない状況下では、宿泊施設は予約数を増やす運営のみでの生き残りが難しいと言えるでしょう。

対策として、販売単価のアップや経費の削減も考えられます。しかし、急激な宿泊費の値上げは顧客の足を遠のかせ、無計画な経費削減はサービスの質を低下させるかもしれません。サービスの質を守りながら顧客満足度を向上させ、経営を成り立たせるには、業務の効率化が重要でしょう。

スタッフを確保して人材不足を防ぐため

人材不足を補うためにもDXの導入は重要です。帝国データバンクが行った「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、2023年5月時点、宿泊業界における正社員の人手不足割合は75.5%となりました。これにはコロナ禍での休業や出勤時間削減、急激な需要回復に耐えかねて退職するスタッフが多いことが影響していると考えられます。

今後も感染症の流行や社会情勢の影響などにより、宿泊者数の増減が再度起こるかもしれません。状況が変わる度に必要なスタッフ数も変わるため、宿泊施設として柔軟に対応できる体制を構築しておく必要があります。

参考:帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)

ホテルの業務でDXができるものは大きく4つ

ホテルの業務には、人でなくても行える業務があります。以下、DXに向いている業務を4つ紹介します。

1.宿泊予約の受付・管理

宿泊予約および顧客管理は、DXがしやすい業務です。現時点で予約対応やその管理を電話・紙で行っている場合は、宿泊予約システムやPMS(予約管理システム)の導入が考えられます。

既にPMSを導入しているにも関わらず手作業で行う工程が発生している場合は、自社の業務・体制とシステムが合っていないかもしれません。これを機に、業務フローを見直してみてはいかがでしょうか。

2.顧客対応

チェックイン・チェックアウトの対応や、宿泊客への観光案内などもDXが可能です。

自動チェックインツールを採用すれば、フロントの人員・業務の削減になり、宿泊客の待ち時間も減らせるでしょう。

観光案内には、AIチャットボットや観光客向けのタブレットを導入する方法もあります。人間のコンシェルジュと異なり、24時間365日対応できる点がメリットです。多言語対応ができるシステムを選べば、外国人宿泊客への対応も可能です。

ホテルでの多言語対応については、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> ホテルの多言語対応はどう行う?事例や方法、注意点を紹介

3.施設管理・清掃

施設管理や清掃の分野も、DXは可能です。人力で行うイメージが強い清掃業務ですが、掃除ロボットを導入すればフロア清掃にかける時間が短縮でき、人件費の削減も可能です。

館内に、人感センサーを設置する方法もあります。ロビーなど共用部分や入浴施設の入口に設置すれば、一定以上の利用者があった時点で清掃のタイミングを知らせてもらうことも可能です。

清掃をする人手がまったくいらなくなる訳ではありませんが、人手が必要なところとそうでないところを区別すれば、結果的に業務効率化に繋がります。

4.スタッフの育成・管理

人材育成や勤怠管理にもDXは活用可能です。前述の通り、宿泊業界における人手不足は深刻です。そこでスタッフの育成にマニュアル動画やオンラインで学習できる育成用プログラムを導入することで、育成を容易にし、早い段階で戦力として活躍してもらえます。

スタッフも効率の良い教育で成長を実感でき、モチベーションを保てる様になるでしょう。結果的に、スタッフごとの対応のムラが無くなり、顧客満足度も上がるかもしれません。

また、勤怠管理システムを導入すれば、勤務体系の異なるスタッフの出勤状況も一元管理できます。現場の管理職や人事担当者の業務負担を、軽減させられるでしょう。

DXの導入により成功した事例

既にDXを行い、業務の効率化を成功させているホテルも多くあります。事例を紹介するので、ぜひ参考にして下さい。

アパホテル|専用アプリと端末でチェックインを効率化

アパホテルでは、スマホでチェックインができる独自のアプリと自動チェックイン機を開発し、2020年から実用を開始しています。これにより、宿泊客はホテルの予約からチェックイン・チェックアウトまでがアプリで完結できる様になりました。

導入の背景としては、待ち時間を嫌う宿泊客が増えたことや、店舗数の急速な増加による人手不足があります。またアパホテルはチェーンホテルであるため、スタッフごとにサービスの質が異なることを避けたかったという点もあるでしょう。

現在はキャッシュレス専用チェックイン機も作り、ホテルに合わせて選べる様になってます。

ヒルトン|現場と本部のスタッフ育成にVRを導入

世界的なホテルグループであるヒルトンでは、スタッフ教育にVR(バーチャルリアリティ)を使った教材を導入し、成果を得ています。

ホテルの現場で働くホテルチームには、VRを通じて宿泊客目線での体験をさせています。オフィスで働くコーポレートチームのスタッフには、VRを使った研修でホテルの業務を体感できる様にしました。彼らはホテルの現場での経験が乏しく、現状に合わないプログラムを考えてしまうこともあったためです。

こうしたことにより、従来は4時間掛かっていた座学でのトレーニングが、20分に短縮できたと言われています。

その他の事例

他にも、DXにより恩恵を受けているホテルは多数あります。

例えばあるホテルでは、社内チャットツールを導入しています。以前は情報伝達をメモに頼っていましたが、スタッフは離れた場所で常に移動しながら業務を行うため、素早く情報を把握できず、十分なサービスが行えなかったのです。

しかしチャットツールによってスタッフ同士のリアルタイムでの情報共有が可能になり、結果的にゲストに満足してもらえるサービスを提供できる様になったと言います。

また別のホテルでは、PMSの導入によって売上アップに繋がったそうです。この施設は夫婦2人で運営しており、予約対応や管理はすべて手作業で行っていたため1日2~3組の受け入れが限界でした。しかしPMSを導入してさまざまな作業をデジタル化した結果、1日4~5組の受け入れを可能にしています。

ホテルでDXを進める手順

実際にホテルでDXを進めようと思った時、段取り良く推進する手順を紹介します。

1.DXを行う業務を決定して事前準備をする

まず、ホテル内のどの業務でDXを推進するのかを決めます。例えば以下の様な業務がDXを取り入れやすいでしょう。

  • 紙で行っている予約管理
  • 人力で行っているフロア掃除
  • 昔ながらのルームキー
  • スタッフ教育

一部分のみデジタルで行っていた業務については、デジタルに一元化するのも良いでしょう。既存の業務プロセスを洗い出し、改善点を見つけることから始めて下さい。

ただし一度に全ての業務でDXに取り組むと経費も掛かる上、スタッフの混乱を招きかねません。導入しやすい一部の業務から始めることをおすすめします。

2.DX推進の体制を整えてツールを導入する

DXを推進する業務が定まったら、実際にDXを担当するチームを作り、導入を進めましょう。そのチーム内で課題を解決できるツールを探し、比較検討していきます。

ツールの検討時は1社だけで決めるのではなく、複数社を比較して自身のホテルに適したものを選ぶようにします。導入に必要な費用について、相見積もりを取ることも忘れないで下さい。また、月々の利用料金だけではなく、最初に掛かる導入料金、サポート体制などの確認も重要です。

尚、DXを推進するのに自社に適切な人材がいない場合は、社外の人材の利用も検討してみると良いでしょう。

3.実際に使用するスタッフの教育や広報を行う

導入したツールを実際に現場で使うスタッフの教育も重要です。

DXにより業務プロセスが従来から大きく変わるケースもあるため、とまどうスタッフも出てくるかもしれません。使い方だけではなく、いかに効率がアップするかについてもレクチャーすることで、スタッフの理解が得られます。

また、社外へ広報するのも良いでしょう。チェックイン・チェックアウトの効率化や、DXによる安全性強化などは、ホテルの強みとしてアピールできます。新しいツールに宿泊客がとまどうことを見越して、あらかじめホームページなどで解説しても良いでしょう。

4.使用を開始してモニタリングする

導入やスタッフ教育が終わったら、実際にツールの使用を開始します。ただし、導入して終わりではなく、使用状況や導入後の成果、課題などのデータを蓄積していき、現状の他の業務プロセスやビジネスに組み込めないか考えることも大切です。

定期的にモニタリングをして課題を洗い出し、より良いフローとなるように改善も行います。現場のスタッフや、宿泊客の声を拾うことも忘れないで下さい。

ホテルでのDXを成功させるポイント

ホテルにおいてDXを推進するには、幾つかのポイントがあります。DXを成功させるために、確認しておきましょう。

顧客満足度を落とさない様にする

効率化を追求し過ぎると、対応に不満を覚える宿泊客も出てくる可能性があります。

急激なデジタル化は、一部の宿泊客が不満を抱く原因になりかねません。DXは、顧客満足度との関連性も考えて実施するべきです。すべてをAIやデジタルツールに頼るのではなく、ホテルのターゲット層を考えながら、人が行う業務とのバランスも考えると良いでしょう。

また、顧客体験を向上させるものを積極的に取り入れるのをおすすめします。インバウンド需要を見込んだ多言語化を実現するツールや、点検やメンテナンスにおいて安全性を高める様なDXも、顧客満足度の向上と宿泊客の安心をもたらしてくれます。

ある程度の費用を確保しておく

導入するツールにもよりますが、DXを進める際は何かと費用が掛かるものです。導入を断念しようとする宿泊施設もありますが、導入後は業務効率化に繋がる、人件費や求人費を抑えられるなどメリットも多いため、検討の余地はあります。

ツールによっては「IT導入補助金」を始めとした補助金が出ているものもあるため、それを最大限活用することも考えてみて下さい。

また費用だけではなく、必要なツールのリサーチや実行にも時間が掛かるものです。導入までの時間も、十分に確保しておくことが必要です。

まとめ 少しずつホテルのDXを推進しよう

ホテルでもDXを推進すれば、業務の効率化に繋がる可能性があります。宿泊客にとっても便利なツールを用意すれば、ホテルのイメージアップにも期待できるでしょう。

とはいえ、一度に推進するには時間も費用も掛かるため、必要なところから順番に推進していくのがおすすめです。予約管理のDXから始めたいなら、宿泊予約システム「予約番」や、宿泊管理システム「every+1」をご検討下さい。IT導入補助金の対象となっているため、無理なく導入が進められます。
自力でのDXが難しいと感じたら、コンサルタントに頼むのもおすすめです。宿力では、ホテル向けのコンサルティングサービスを行っています。