ホテル経営で生じる課題5つ|対策や宿泊業界の現状、事例も紹介
公開日 (更新日 2024.01.17)

ホテル経営で直面する課題としては、人手不足や建物の老朽化、社会情勢の影響などが挙げられます。ホテルは社会情勢の影響を受けやすい上、損益分岐点が高く、利益を上げ続けるには相応の工夫が必要です。
そこで、業界で多く見られる課題と対策、課題を乗り越えた事例を解説します。
宿泊業界の現状と今後の展望
ホテル経営の課題を知る前に、まずはホテル業界の現状と展望を把握しておきましょう。
観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、令和4年度の宿泊者数は、日本人が4億3,396万人泊、外国人は1,650万人泊でした。コロナ禍で一時は激減した宿泊者数も、回復傾向にあると見てよさそうです。
宿泊施設全体の傾向を見てみると、ホテルの軒数は減少傾向にある一方、カプセルホテルやゲストハウスといった簡易宿所の軒数は増え続けています。簡易宿所は旅館やホテルに比べると旅館業法の規制が厳しくなく、参入者も多いのでしょう。
また、軒数自体は減少傾向ではあるものの、新規開業するホテルも目立ちます。近年はコンセプトに凝ったホテルや日本初進出のホテルなどさまざまで、今後も競争は激化していくと考えられます。
参考:観光庁『宿泊旅行統計調査(令和4年・年間値(確定値))』
ホテル経営でよくある5つの課題

ホテルを経営しているとさまざまな課題に直面しますが、その中でも多くのホテルが共通して抱えやすいものを5つ紹介します。
これから経営を始める場合でも、想定しうる課題に備えて準備をしておきましょう。
1.人手不足
ホテル経営で大きな課題とされているのが、人手不足です。
厚生労働省によると、2022年の宿泊業、飲食サービス業への入職者数は約99万人でした。2021年の約59万4,000人に比べると、増加傾向ではあります。
ただし、帝国データバンクの調査によると、2023年5月現在、宿泊業界における正社員の人手不足割合は75.5% で、他の業界と比べても高い数字です。コロナ禍で休業や出勤時間削減を余儀なくされたことや、急激な需要回復での繁忙に耐えきれず退職するスタッフが多いことが影響していると考えられます。
参考:厚生労働省『令和4年上半期雇用動向調査結果の概況』
参考:帝国データバンク『人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)』
ホテル・旅館(宿泊施設)の人手不足については、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> ホテル・旅館(宿泊施設)の人手不足を解消するには?5つの施策を紹介!
2.収益性アップが難しい
そもそも宿泊業は、固定費の割合が高く他の業界に比べると損益分岐点が高い傾向にあります。加えて国内人口は減り続けており、宿泊客の確保がどんどん難しくなっています。
総務省によると、2022年10月現在の国内総人口は約1億2,495万人で、前年比 – 55万人以上です。なお、総人口は12年連続で減少しています。
そうした状況下で収益性を保つには、集客への工夫だけではなく、経費の削減についても考えなければなりません。ただし経費を削減しサービスも低下すれば、さらに客足が遠のく可能性があるため、施策は慎重に検討しなくてはなりません。
参考:総務省『人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐』
3.社会情勢や景気が運営に大きく影響する
ホテル業は、社会情勢や景気による影響を大きく受けやすい業界でもあります。
記憶に新しいところでは、コロナ禍における感染状況の悪化や緊急事態宣言の発令、『Go Toトラベル事業』の実施により、宿泊者数が大幅に上下しました。廃業となったホテルも、少なくありません。
他にも、災害や悪天候、国際情勢などの影響も受けるでしょう。2023年7月時点では宿泊者数は徐々に回復しつつあるとされていますが、今後何があるかは誰にも分かりません。集客はわずかな社会情勢や景気の変動でも影響を受けるため、常に先を見越した経営が重要です。
4.アナログな仕事が多い
ホテルの業務は、全体的にアナログな手段で行われている傾向にあります。ホテル管理システムのPMS(Property Management System)やブッキングエンジンの導入を始めとしたIT活用をしている宿泊施設も、まだそれ程多くはないようです。
ホテルにアナログな仕事が多い理由としては、以下のような慣習や考え方が根強いためだと予想されます。
- 顧客名簿や予約管理をExcelでのみ行っており、人力で入力・更新をしている
- 予約管理ツールを導入しているものの、その内容をプリントアウトして活用している
- おもてなしの文化が根付いており、「細やかな心配りをするために、人が対応した方が良い」という意識がある
- 客室内や共有スペース、厨房などの清掃業務は多岐にわたり、人が行うしかできないものが多いと考えてしまう
アナログな方法で業務を進めることは、ホテルの様な接客業では必要なシーンもあります。しかしあまりにもシステムの導入が立ち遅れていると、スタッフ一人一人の業務負担が大きくなるでしょう。
ワークライフバランスが取りにくくなることから、離職を増やしてしまう可能性もあります。
5.施設の老朽化への対応が必要
すでにホテル経営をしている場合、施設の老朽化に悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
2023年時点では資材の価格高騰もあり、設備工事費・建築費などの値上がりが続いています。自身のホテルが古くなっても、資金不足により十分な改修ができない場合もあるでしょう。もし改修できても十分な費用対効果が見込めないと考え、古くなった設備もそのまま使っているホテルもあるかもしれません。
しかし、施設が古いままでは集客に影響が出る可能性があります。宿泊客が減少すると、稼働率を上げるために宿泊単価を下げなければならなくなることもあるでしょう。結果として、さらに収益が減り、修繕が行えなくなるという悪循環に陥りやすくなります。可能な限り、早めの対策が必要です。
ホテルの経営課題への対策

上述の様に、ホテルの経営にはさまざまな課題があります。しかし、対策の方法も幾つかあるため、それ程悲観する必要はありません。
ここからは労働環境、システム、集客方法の面から、対策について見ていきます。
スタッフにとって快適な労働環境を整備する
宿泊業界の人手不足の原因となっているのは、離職率の高さも一因だと言えます。
上述の通り、厚生労働省の『令和4年上半期雇用動向調査結果の概況』によると、2022年には宿泊業、飲食サービス業への入職者は99万人いたものの、離職者も72万8,600人に上りました。
離職者が多かった2021年上半期の入職者59万4,700人、離職者77万1,100人に比べると回復しているものの、依然として離職者が多い状況です。
離職者が多い理由は、一例として以下が考えられます。
- 不規則な勤務形態
- 休暇の取りづらさ
- 給与の安さ
- 仕事の忙しさ
スタッフが休日を取りやすくする、給与を上げるなどの対策が必要です。また、ITツールやIoTのシステムを導入し、スタッフの業務効率化を図るのもおすすめです。
参考:厚生労働省『令和4年上半期雇用動向調査結果の概況』
業務のDXを推進して生産性向上を図る
フロント業務をはじめとしたサービスや業務の一部または全般のDXを計ることで、業務の軽減ができます。業務をスリム化することでスタッフの負担が減り、離職者が減少する可能性があるのです。
宿泊業界は繁忙期と閑散期の差が大きく、必要なスタッフ数にも変動が出やすいものです。しかし最初から業務をスリム化しておけば、柔軟な対応ができます。
例えば、今後も新たな感染症の流行などで宿泊者数の大幅減少が起きたり、インバウンド需要の高まりで業務が増えたりするかもしれません。そういった場合でも、デジタルツールやAIなどを上手に活用すれば、あらためて人員の解雇や雇用をしなくても済むでしょう。
導入費用がネックにはなりますが、業務のDXには『IT導入補助金』を始めとした補助金も出やすい状況です。常に国や自治体のサイトをチェックし、利用できるものがないかを確認してみて下さい。
ホテル業務のDX化について、ホテルのセルフチェックインについては、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> ホテル業務のDXが急務!実施の手順を事例と共に解説
>> ホテルのセルフチェックインとは?メリット・デメリットや導入の手順を紹介
宿泊単価や客室稼働率を上げる戦略を立てる
宿泊客1人当たりの単価や客室稼働率を上げて、利益を増やすことも重要な課題です。
単価アップのためには「宿泊客の滞在日数を増やす」「オプションのサービスを利用してもらう」などの方法も効果的でしょう。
また、多くの集客を実現するためには、ターゲットの趣味・嗜好、世代、ライフスタイルなどに合わせたユニークなプランを作ったり、リピーター獲得に繋がる施策を考えたりすることも重要です。
例えば、ビジネスホテルならばテレワークに特化したプランを用意したり、定額で宿泊し放題のサービスを行ったりする方法もあるでしょう。ホテルのブランディングそのものを見直し、ターゲット層を変更する手もあります。
ホテルで使えるマーケティング手法について、客室稼働率(OCC)については、以下の記事で詳しく解説しているので、合わせて参考にして下さい。
>> ホテルで使えるマーケティング手法6選。選び方や実施の手順も解説
>> 客室稼働率(OCC)とは?ADR・RevPARとの違いや目安も解説
ホテル経営で生じる課題を解決した事例

実際にホテル経営で起きやすい課題を、さまざまな工夫により解決しているホテルも多数存在します。今回は、福利厚生の充実、Webサイトの活用、顧客管理システムの活用により経営課題を解決した事例を3つ紹介します。
スタッフの休暇や再就職制度などを充実『西武・プリンスホテルズワールドワイド』
国内外にホテルを展開しているグループ『西武・プリンスホテルズワールドワイド』は「多様な社員が力を発揮できる組織作り」をモットーにしている企業です。
同社はスタッフのワークライフバランス向上のために、以下の通りさまざまな取り組みを行っています。
- 再就職ネットワーク
- 再雇用制度
- 結婚休暇
- お祝い金制度(結婚祝い金・出産祝い金など)
- 育児休業制度、介護休業制度
- リフレッシュ休暇
『再就職ネットワーク』『再雇用制度』は、転勤や出産・育児・介護などでやむを得ず退職することになった社員向けの制度です。
こうした取り組みの影響もあり、年次有給休暇の平均取得日数9.3日、月平均所定外労働時間9.5時間を実現しています。スタッフのワークライフバランス向上を計ることで、無理のない勤務態勢を整備できていると言えるでしょう。
旅館のWeb集客強化で売上約2倍に『銀波荘』
愛知県の歴史ある温泉旅館『銀波荘』は、かつては東海エリアだけではなく関東・関西からも集客できていました。しかし2005年から主力ターゲット層である団体客が減少し、売上が減少していきました。
理由としては、集客を旅行会社に頼っていたため、Web集客には注力できていなかった点が考えられました。自社のWebサイトを持っていたものの、Webに強い人材がいなかったため、十分に活用できていなかったのです。
そこで、Web戦略を外注し、独自のプランや宣材写真の撮り直しなど複数の施策を実施しました。その結果、Web集客が改善。2年間でWeb予約の年間売上が約2倍になっています。
PMS導入によりさまざまな効果が出たホテルチェーン
他にも、PMSを導入して効果が出ているホテルも多くあります。PMSとは予約や客室の管理を行うシステムで、精算、客室の残数のチェック、顧客情報管理、データ分析などを行えます。
例えば東京を中心に展開するあるホテルチェーンでは、PMS導入によりフロント・予約業務の効率化が可能となりました。
また、別のホテルチェーンでは、データに基づく販売指示ができる様になりました。それまではスタッフの勘や経験を元にシーズンごとの稼働率を予想していましたが、PMS導入で需要予測の高度化が実現したのです。
まとめ 環境整備やツールの導入で経営課題を解決しよう
ホテルの経営課題は、人手不足や建物の老朽化などさまざまです。しかし、対策もはっきりしているため、着実に対応すれば課題解決は困難ではありません。
人材不足やスタッフの業務軽減化などのために有効なのがITツールを導入し、業務効率化を図ることです。ホテルで使えるITツールは多数ありますが、顧客を管理するならばPMS、集客施策に力を入れるなら、Web予約システムの活用も視野に入れると良いでしょう。
もし、どの様な施策をとるのが良いか迷った場合には、宿泊業に特化したコンサルタントに相談する手もあります。「宿力」は宿泊業に特化したコンサルティング会社で、Web戦略についても綿密なサポートを行います。また、PMSの「every+1」、インターネット宿泊予約システムの「予約番」の導入についてもご相談可能です。